『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』を読んで、雇用の”あたり前”の起源を知ることで未来をつくる

新年一発目、『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』を読みました!

これは、
「なぜ、学歴重視なのか」、「なぜ年功序列が生まれたのか」
その理由が書かれている本で、人事、HRに関わるひとは歴史的な背景を知っておくべきだと思いますし、今の”当たり前”がどのように生まれたのかを振り返ることができます。

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この中でも特に興味深かったのは、
・日本でももともと知識層が少なく特権階級的なものだったにもかかわらず、会社のポストに対して知識層が増加しすぎたことによって新卒採用が生まれたこと
・職務とは関係なく、学歴と年齢で賃金を決めるということを経営者も労働者も選択したこと
です。

 

同じようなことを渋沢栄一も『論語と算盤』で記していましたが、
今までは大学にみんな行けなかったので、それに伴って会社のポストも限定できたが、
大学にみんながいけるようになると、大学卒業者しか就けない重要ポストが足りなくなりました。
アメリカでは重要ポストに就ける人を大学院修了者にすることで重要ポストの格を上げましたが、
日本では新卒や女性などボトムを増やすことで重要ポストを増やす(厳密には重要ポストの格を下げる)ということをしています。

 


また、日本会社の中で職種の重要性が薄いのは年功序列・長期雇用を前提としているからであり、
年功序列・長期雇用が許容されている理由は
・労働者:年功序列・長期雇用で生活を保証してもらう代わりに企業にコミットする
・企業:企業内だけで職務や賃金を決定できなくなる
という共依存によって生まれました

 

ここで重要なのはその歴史的背景を知った上で、「日本やばいやん」で終わるのではなく徐々に変えていく(変えられる)ということです。

 

すべての社会関係は、一定のルールに基づいて行われる、利害と合意のゲームである

という文中の言葉にあるように、
「しくみ」は歴史的過程から定着したため一気に変えることは難しいものの、
今の「しくみ」の起源は明治からだとすると、言うても150年くらいのものですし、
透明性と公開性によって合意を得ながら進めることで徐々に変化させられるものだと思います。

 

 

 

<以下本文メモ>

●なぜ職種よりもその会社でのポストが重要視されるようになったのか?
・明治初期に中等・高等教育をうけた元士族が職種にこだわらずに知識層として官職に就いたところからスタートして、
・1869年に官吏においてどの官等の者がどの役職に就くか、それに伴う俸給が詳細に決められ、
これが学校、警察、町村役場、鉄道、官営工場に適応され、
さらに日本の鉱業や製造業などは官営企業の払い下げによって民間企業となりそれらもこの制度を踏襲していた。
 
●なぜ職種よりも学歴が重要視されるようになったのか?
・官吏の試験任用制度はドイツのプロイセンの制度を参考に制定されたものの、
明治の日本では高等教育を受けた人材不足にて高等試験の合格者よりも無試験の帝国大学卒業生を試補に採用
┗ドイツは大学卒業者が供給過剰だったため、官吏になるまでのハードルを設け、時間がかかることから実質富裕層や貴族層でなければ高級官吏になれない
・企業の新規学卒者採用は1985年の日本郵政と三井から始まった
┗当時は高等教育卒業者が少なく人材獲得競争も激しかった
大学令によって1902年には慶應、早稲田など10校の私立大学が大学として認可された(のちに知識層過多につながる)
・明治初期から企業が学校に望んでいたのは、専門能力を保証する学位の発行よりも、「人物」を事前にスクリーニングする機能であり、大学からの紹介がメインだった
1920年ころから企業は成績や紹介よりも、「人物」を重視した選考を行う
┗優良可などの段階方式で成績評価が行われたこと、大学と大学卒業生が急増したから
 
●なぜ、戦後、職種よりも長期雇用と年功序列が重要視されたのか?
・敗戦後、誰もが生存ギリギリの状態だったので、年齢と家族数で決まる生活給がうまれる
・経営者は中高年労働者の賃金を下げ、解雇を進めやすいため職務給と横断的労働市場を称賛したものの、企業内だけで職務や賃金を決定できなくなることから、長期雇用や年功賃金とひきかえに、企業別組合と妥協
→職務とは関係なく、学歴と年齢で賃金を決めることを認める
・大卒職員を昇進させ続けるためには、無駄なポストを増やし続けるか、組織を大きくするしかない。組織を大きくするなら、多数の新卒者を採用するしかない
・1950年代後半以降、女性の賃金が上昇する前に解雇する結婚退職制や性別定年制を、明示的に規定する企業が増えた
・1970年代民衆の進学熱により受験戦争過熱、系列会社への出向や転属を、大卒中高年のポスト不足だけでなく、現場労働者の雇用維持にも活用
・日本の労働運動は長期雇用と年功賃金を労働者にまで拡張させ、職員に昇進しうる可能性を開くという「社員の平等」を志向
→日本の労働者は経営の裁量で職務が決まることを受け入れ、他企業との間に企業規模などによる断絶があることを受け入れた